美ら海は 嵐

       〜789女子高生シリーズ・枝番

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


相変わらずの猛暑にうんざりしている日本列島ではあったが、
それでもさすがに“立秋”を過ぎたせいだろか、
朝晩のひととき、多少、ささやかながら、
エアコンが要らない風も、吹いて来たような気が……。

 「単なる気のせいですって、それ。」
 「そうそう。」

ううう…。
今ドキの若いもんは、ホンマにもうもう容赦がないったら。

  まま、それはともかくとして。

夏といえばの“高校野球選手権大会”も甲子園で始まり、
そしてそれより一足早く、
南国沖縄で開催されていたのが、
同じ高校生たちのスポーツの祭典、
インターハイこと、高校総体…なのだけれど。

 「そうなの、飛行機が飛ばなくて。」

台風4号が沖縄近海、久米島北々西を北上中。
その影響から、
高校総体の海上部門は、軒並み“延期”になっており。
剣道部門(女子)の東京都代表の一人として参加していた、
草野さんチの七郎次お嬢様も、
この今年初めて日本へやって来た台風に、
意地悪をされている真っ只中。
競技自体は4日から6日のうちに消化し終えており、
個人戦で堂々の優勝を果たしたところまでは良かったのだが、

 「何でもさ、
  7日8日は土日だったから飛行機もほぼ満席だったらしくって。」

それでも予約席は何とかキープしていたため、
2日に分けての帰京をとこなしていた東京組だったのだが。
8日の後半辺りから、文字通り雲行きが怪しくなって来て、
特に急ぎはしないと2日目の便のほうを希望していたところが、
台風の通過を待たないと、飛行機は飛ばせないという通達が出たらしい。

 【 …………。】
 「ごめんね、久蔵。
  リハーサルとか、観に行くよって言ってたのに。」

携帯の向こうにいる友は、
日頃からもそれは寡黙な少女だったから。
この沈黙が、茫然としてのそれなのか、
それとも落胆や消沈からのものなのか、
それとも、もしかしてもしかしたら…憤怒からのそれなのか。
お顔が見えないとさすがに判らないのが、
何とももどかしい七郎次であり。

 “もうもう、焦れったいったら。”

面と向かっていたならば、
目許の瞬きの間合いや口許のニュアンス1つで、
難無く 思うところが通じる間柄なのに。
何とかならぬかと、こちらまでもが唇咬んでいたところが、

 【 はいゴメンね、お電話代わりましたよ。】
 「あ…ヘイさん?」

声が入れ替わったので、
傍にもう一人の親友さんもいたらしいと、七郎次にも今やっと通じたところ。

 【 シチさん、真っ先に久蔵殿へ電話とは、隅に置けませんね。】
 「あ、や、あの…。」

勘兵衛殿には連絡してないんでしょ?
お忙しいのだ、どうせ迎えに来てくれるはずもなし、
いやさ、そんなことで煩わせちゃあいけないとか何とか思ってですか?
冷やかし半分としか思えぬ言いよう、矢継ぎ早に並べられ、

 「ヘイさんっ。//////」

客室はどうも電波の状態が悪いのでと、
出て来ていた此処は滞在中のホテルのロビー。
同じような理由からだろ、他にも携帯片手という顔触れは多く、
それでも 素っ頓狂な声を出すのは行儀が悪い。
そうと思ってのいい子でいたものの、
とうとう“もうもうもう”という責めるようなお声を返せば、
冗談ですとあっさりしたお返事があってから、

 【 せっかく優勝したのに、足止めなんてあんまりだよね。】

宥めるようなお言葉をやっとのことで返してくれた。
久蔵?
うん、ちょっと呆然としてたけど、それはシチさんのことを心配してだよ?
戻って来れないなんて大変だねって。
怒ってるはずなんかないでしょ? ねえ? 久蔵。
うんうんて、あ…また口許咬んでる。
おやめなさいってば…って、ちょっと待っててね。

 【 ……………。】
 「あ、久蔵?」

今日はゆっくりしてていいの?
リハーサル、明後日なんでしょう?
群舞の前列とったって言ってたじゃない。
出番も多いんじゃないの?
ヒロインの周りに、一人ずつ飛び出してって交差するの、
何てったっけね、あれもするんでしょ?
全部の幕にほとんど出ずっぱりなんですってね。
発表会じゃない、大人のちゃんとした公演でだもんね。
大したもんだよね、ホントに。

 【 シチも。】
 「んん?」

林田がテレビ、セットしてくれた、と。
何とも覚束ない言いようをした久蔵だったのへ、
ああと、擽ったげに想いが至った七郎次だったのは、

 「ヘイさんたら、相変わらずに凄腕ですものねvv」

現地以外では限られた競技しか中継されないことに焦れたか、
沖縄にいた知り合いに頼んで、
携帯にてリアルタイムで試合の模様を撮影してもらい。
それをこちらで受信したそのまま、
家庭用テレビの画面へと、
鮮明かつ臨場感あふれる代物として展開してくれたのだとか。
本職のテレビスタッフが、
中継車や衛星回線を使ってとかいうならともかく。
ほんの十代の少女が、
思いついたその日にちゃちゃっと、
それは手際良くこなせることじゃあなかろうに。

 【 久蔵んチのリビングの、100インチテレビへ、
   シチさんの麗しい道着姿とか、お見事な一本とか、
   ここぞとばかり、目一杯大映しさせていただきました♪】

 「ヘイさ〜〜〜ん。////////」

途中から割り込んだご本人様のお言いようへ、
七郎次がまたまた困ったことよという声を出したものの、

 【 こういう時くらいはと説得して、
   勘兵衛殿もギャラリーにと呼んじゃいましたし。】

 「……………………え?/////////」

真っ赤になった美少女剣士が、
一拍おいてから、

  ええ〜〜〜〜〜〜っっ!!と

ロビー中の注目集めるほどの絶叫を放ったのも已なきこと。
何でどうして、ヤダ、アタシがこっちに来てる時にどうしてよぉと、
途中から支離滅裂な物言いになってしまった白百合様には、
スピーカートークにした携帯を見やりつつ、
紅バラ様までが苦笑をこらえ切れなんだそうで。
やっぱり3人一緒が楽しいから、
あのね、早く戻ってくるといいのにねと。
軒端でちりりん、南部鉄の箸風鈴が涼やかに囁いたのだった。









   おまけ


ロビーに集まっていたのは、
主には自分と同様の高校生たちが大半だったので。
ならば…喚いたり騒いでもいいかということではなかったけれど。
クススッと吹き出された程度で済んだのをいいことに、
微妙に慌てつつも出来るだけ速やかに、
何でもなかったかのように態度を繕い、
その場から離れることにした七郎次であり。

 「…あ、草野さん。」

間のいいことには、同じ東京代表の剣道女子たちが、
買い物にでも出ていたか、戻って来たのと合流出来て。
引率の先生が一緒だったけれど、
この風でしょ? やっぱ危ないからってあんまり見て回れなくってと、
それでもご当地の土産物屋へは運んだのだろう、
シーサーのプリントされた紙袋を手に手に提げていた彼女らで。

 「ホント、風は強くなる一方だよね。」

ロビーから各部屋のある階ごとの待ち合いフロアへと、
歓談の場を移しかけていた少女らが、
渡り廊下の大窓から見やった外はといえば。
遠景に、真っ青な海を望める開放感のすぐ手前、
ソテツだかシュロだか、
南国風の樹がその大きな葉をのたうつように振り乱しており。
あ〜あだよねと口々に残念がってたその傍ら、
別の棟からやって来た二人連れが通過しかかり、だが、

 「…っ。」
 「…え?」

ほぼ同時に、互いの内の一人が足を止めて振り返る。
ここへ来たのは微妙に学校行事としてではないのだが、
それでもまま、あんまりはっちゃけるのも問題かなと、
大人しめのTシャツ風のトップスと、
更紗生地のパレオをアクセントにした
膝丈スカートといういで立ちでいた七郎次は。
金髪頭なだけじゃなく、瞳も水色だということから、
スポーツ集団の中にあっては結構目立っていたけれど。

 それを言ったら、
 今 擦れ違いかかった相手も同じじゃないのか

金の髪はふわふかの、たいそう軽やかなエアリーカールを保っており、
すらりとした痩躯は、弱々しい印象はなくの、
むしろ鞭のような強かな鋭さをたたえていて。
この宿舎に逗留しているのなら、
剣道か柔道か、若しくは空手か、いずれかの武道関係者なのだろに。
真っ白な頬や鼻梁のすべらかさは、
女子と言っても通りそうなほどに繊細な作り。
肉付きの薄い緋色の口許は、品よく引きしまっていて、
そして、そんな相手がこちらを驚いたように見つめるその眸が、

 “……………何で久蔵と同じ真っ赤なの?”

色素の関係から…だろうが、
光を識別する感応器でもある瞳に、
こうまで血の色があらわになるという例は、そうそう滅多になかろうに。
現に久蔵も、長く生きられない脆弱な子なんじゃなかろうかと、
周囲をたいそう心配させたという話だったほどで。
今さっき、東京にいる彼女との会話を交わしたばかりだったから余計に、
何でどうしてとの驚きも強かった七郎次をよそに。
そちらも何故だか微妙に目を見張っていたところを、
連れから袖を引かれてしぶしぶのように去ってゆき、

 「……今のって、島田くんじゃん。」
 「うんうん、見れてラッキーvv」

こちらの連れだった少女らが、そんな声をこそこそっと上げたので、
はっと我に返れた七郎次。
何とはなく、きゃわきゃわという軽やかピンクな空気を感じつつも、
彼女らが詳しそうなのでと訊いてみれば、

 「有名な人なの? 今の人。」
 「何言ってるかな、R市立の島田キュウゾウくんだよ。」
 「一緒にいた榊さんと二人、2年連続で代表になった凄腕なんだから。」

草野さんも、あちこちで顔合わせてたはずだろに。
あ・でも、女子の試合以外は観てないか?と、
微妙に“お堅いガッコだもんね”と揶揄されてしまったものの、
そんなことはもはや、どうでもいいと耳には届いていなかった。

 “うあ、もしかして久蔵の親戚かなぁ。”

でも、こんなまで年が近い親戚がいたら、しかもああまでそっくりなら、
何かと話題になってるよなぁ。
そんな話は聞いたことないし…他人の空似かなぁ?と。
台風がもたらした思わぬ滞在は、
別な“思わぬ遭遇”までも、もたらしたようでございます。
(笑)






    〜Fine〜  10.08.09.


  *またもや会話中心という出来の代物ですいません。
   突発的に思いついたその上、
   新鮮さが命というネタだったもんで、
   細かい描写までは筆が至りませなんだ。
   それと、作品中の競技成績は、
   当然のことながら大々的な捏造ですので どうかご容赦。

  *おまけ話の元ネタはといえば、
   某海賊さんたちのお部屋の方で、
   ルフィが柔道の代表で来ていた先の練習場とかで、
   金髪の剣豪さんとすれ違ったりしてたら楽しいでしょうねと、
   某Cさんと沸いたのが切っ掛けでして。
   ただ、お侍様のキャラとのコラボとなると、
   どこに書きゃいいのかですよねぇと、
   そこで一旦立ち消えになってたんですね。

    ………で

   コラボってほどじゃあありませんが、
   あ、そういえば、沖縄に来てる子がもう一人いるじゃないと、
   こちらのお嬢様を思い出したワケでして。

   きっと島田さんチの久蔵さんも、
   今のってシチにそっくりじゃなかったか?
   でもでもスカートはいた女の子だったようなと、
   目が点になったまんまだったら笑えます。
   きっと、ヒョゴさんはちゃんと知っていて、
   でも試合前に逢わせたらコンディションに影響出るからって、
   会わせないように画策しまくってたんだとか?
(大笑)

めーるふぉーむvv ご感想は こちらへvv

ご感想はこちらvv(拍手レスもこちら)


戻る